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>>457
杏子「え、わ、分かるんですか！？」
ぱっ、と目を丸くしながら顔を上げると、笑顔を向けられ思わず胸が高鳴る。だがこれは漫画やアニメでよくある一目惚れやそういった類のものではなく、単純に驚いたからだった。平凡な生活を送ってきた杏にとって、あまりにも美しすぎたのだ、彼は。何故か頬が熱を持ち、ほんのりと赤く染まる。

「……え、え、あ、そ、そうですね！ ん？ ……え、手？」
そんな状態の彼女が正常な思考能力を失うのは容易だった。ぼんやりと真っ白になった脳内に不意に彼からの言葉が響けば、反射的に頷きを返してしまう。けれど冷静になるのも早かった。
ほんのりと染まっていただけの頬が、更に熱を持っていくのが分かる。大学生にもなって異性と、それもかなりの美形と手をつなぐということが現実味を喪失させる。まさに夢を見ている気分だった。そのせいだろうか、「い、いえ、勿体ないです！」とおかしな返答をしてしまったのは。
けれど、何故か彼の笑顔には既視感があったような気がした。


来璃「……貴方、人、じゃないんデス……？」
何度目になるだろうか、またも来璃は首を傾げて彼に尋ねた。無表情で、ただ淡々と。
特に深い意味はなかった。何かを思い出したわけでもなかった。でも、”人の子”という発言はあまりにも引っかかりすぎる。相手だってどう見ても人間なのに、どうして目の前にいる女の子はそんな発言をするのだろう、と。ちょっとしたからかいのつもりだったのかもしれない。

「うん」
こくりと素直に首を縦に振るが、相手の眉間に皺が寄るのを見ると、あまり快く思われていないのだろうか、という考えが頭をよぎる。よく考えてみれば人の私有地に勝手に入ったのだから、歓迎されないのも無理はない筈だ。
お菓子を貰ったらすぐに帰ろう。そう思った彼女は社に入ろうとしなかった。