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杏子「う、ん」
こくりと頷きを返すも、手の甲に口付けられるとまた頬が熱を持つ。甘い笑みは全身に熱を運んでいき、思考を停止させてぼんやりと彼を見つめてしまう。
自分が成長してしまったからなのだろうか、彼の自分に対する反応、仕草、全てが昔とは異なったように見える。子供にする扱いというよりは、まるで恋人に対するもののような。

「(……い、いや、それは考え過ぎ……)」
いや、さすがに考えすぎだ。我ながら自意識過剰のような想像をしてしまった、とすぐに考えを変える。あんなに仲の良かった友人と再会したのだし、彼のことを考えると特におかしなことではない。
しかし、これ以上立ち止まっていると余計なことまで考えてしまいそうだ。「じゃあ行きましょう」と微笑して、また急かすように彼の手を引き、何から話そうかと考える。


来璃「ん……そうだね、なんでか春ちゃんのこと忘れちゃってた……」
額への口付けにくすぐったそうに目を閉じると、ごめんね、と再び謝罪しながら、半ば仕返しのように彼の頬に口付ける。
怒っているような拗ねているような、そんな彼の表情を見ればやはり可愛らしいと、愛おしく見えた。そして彼がずっと自分を待っていてくれたことに嬉しさが込み上げる。宥めるように優しく頭を撫でれば、昔に戻ったような感覚も覚えた。

「……その割にはさっき、どうでもいいって言ってたけど……」
名前教えたのに、とまたからかうように呟けば、わざとらしく眉を下げて悲しそうな表情を見せる。上手く表情を作れているかは分からないが、彼はどう反応するのだろうという好奇心もあった。