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杏子「でも、あんまりゆっくりしてると日が暮れちゃうわ」
冗談めかしたようにそう言えば、クスクスと笑みが溢れる。こうして並んで、言葉を交わしながら歩くのも久しい。手をつないだのも何年ぶりだろう。心地よい懐かしさにいつまでも浸っていたいという気持ちはあったが、この街に来た本来の目的も達成しておきたい。
それに、道中だけでは話し足りないこともあるだろう。後でお茶でも飲みながら話すのも悪くないかもしれない。

「……この辺はそんなに変わってないのね……」
手を引かれながらキョロキョロと辺りを見回して歩いていると、そんな呟きを漏らす。彼のことを思い出すと同時に、この辺りの景色の記憶も蘇る。ところどころに変化は見られるが、それは身長が伸びたからなのか、どうか。


来璃「……もう教えちゃった」
苗字だけど、と呟きながら、焦るような表情を見せる相手を落ち着かせるように頭を撫でる。少々からかいすぎただろうか、今度は落ち込むように目を伏せる様子を見てそんなことも考えるが、相手が変わらず優しいままであることに嬉しさも覚えた。ぎゅ、と抱きしめれば、いいよと謝罪する相手の耳元で呟く。

「……それに……消えるの、もうダメなんでしょ。……私、飴色来璃。ちゃんと呼んで」
子供が欲しいものをねだるような口調。我が儘だろうか、けれど彼になら名前を教えても構わない。むしろ、名前を呼んで欲しかった。