静かな空間に十代後半の少年と少女が居た。二人以外は誰もいず、静かすぎるのか時計の針の音がはっきりと耳に入り込んでくる。少女は自分を凝視してくる少年にしびれを切らしたのか、久しぶりにその唇を動かした。
「……何」
「いや、何でも……」
この二人、恋人である。先程から全く会話をしていないし、互いが互いのやるべきことをやっているだけで特に何もない。この二人が部屋に二人っきりになったときから、冷めた空気が辺りを埋め尽くしていた。
「普通さ……恋人って言ったらこう、もっと和やかな雰囲気が」
「そ」
「この野郎、一言どころか一文字で返してきやがったし」
まるで話をしたくないとでもいうように、少女は彼の言葉を遮って短く言葉を発した。それに軽くイラつきつつ、何とか平静を保って少年はごちた。
一応、これは二人の日常茶飯事である。
* * *
四年前、まだ中一だった頃、俺は恋をした。そしてその子としばらくして無事付き合うことができたのだが……その子というのが、この無表情で隣を歩いている女である。
「……寒いな」
「…………」
「っ、おま、手……」
ただ、退屈そうに歩いていても、ときおり手を握ってくることもあって。
「暖かいから触ってるだけ」
「……冷めるわ」
「手擦り合わせれば」
「いや、手もそうだけど気持ちが」
「あ、雪」
「おいこら話聞けや」
ただ、特に好意を持っている様子も、見受けられない。正直俺には、こいつが本当に俺を好きなのかどうか分からない。数年前の告白を承諾してもらえたは良いものの、全然彼女のオーラと対応が恋人っぽくない。
「……お前さ、俺のこと嫌いだろ」
いつものように無視されるかと思ったが、少し握る彼女の手に力が入り、彼女は足を止めた。そうして
「私が、いつ嫌いって言った?」
以前いつ見たかも分からない笑顔を浮かべて
「騙されてやがんの、ばーか」
いたずら好きの子供のように楽しそうに言った。
「は……? っ……え、っ……」
「私は貴方のこと、嫌いじゃないよ」
決して好きとは言われず、歯痒さを覚えてしまう。嫌いじゃないなら、好きなのかもしれない。でもそうじゃなくて、そこまで好きでもないかもしれない。
「す、好きなら好きって、そうじゃないならそう言えよっ」
「やーだ」
はっきりしないけれど、笑ってはいる彼女に安心して良いのか、先行きの不安に頭を抱えれば良いのか。
先陣きって行く彼女の手は、俺の手を引いていた。
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今回は主人公かヒロインのどちらかが、好きだけど好きじゃない風を装って振り回すお話です(笑)←
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