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「…もういる。」

駅から出てくるとすでに倉嶋が来ていることに気付き、早足で倉嶋のもとへ向かう。時刻は11時20分、待ち合わせの時刻10分前にしっかり来たつもりだったが倉嶋はもっと早く着いていたらしい。
汐音はふと、駅の中にあるショーウィンドウの前で立ち止まると自分の格好がおかしくないか確認する。上はいつもの猫耳付きのパーカーだが下はジーンズではなく短パン。前日、友達にもうちょっと女の子っぽくしろと言われ仕方なく穿いたものだ。本当はワンピースやスカートをすすめられたが汐音にはこれが限界だった。生足を出すのは久々で恥ずかしさもあるが、もう吹っ切れたらしい。

確認して小さく息を吐くと急いで歩き始める。小さな声でここから仕事、と何度か呟くと今までの無表情が嘘だったように見えるほど笑顔を浮かべる。倉嶋に笑顔はいつも見せているが、今回は仕事と言うことで他の人も居る。その人たちに対しても笑顔で接しなければいけない。なぜこんな仕事を受けてしまったのか考えていると、いつの間にか待っている倉嶋のもとについていた。

「ごめん、待たせちゃったね。」