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>>106

「……ッ！」

彼が大きな声を出した事で、驚愕して目を瞠る。
腕を離され、捨て台詞を吐いて去って行こうとする彼の背に、言葉は口にする寸前で詰まってしまい紡ぐ事なく、そのまま遠ざかって行く彼の背を朧げな視界で見詰める事しか出来ず、結局彼を踏み止めさせる事は叶わなかった。
以前迄の俺なら透かさず言動に起こしていたが、いつから物怖じするようになってしまったのか。
言いたくない事を無理に聞き出すつもりは無い、相手が心を開く迄は。
俺にも言い難い事はある。
嘗ては俺の傍にいた温もりである相手へ、思いを馳せ＿。
怒りよりも悲痛な思いで歯を噛み締め、突っ立ったまま襟を目元に近付け涙を拭っていたが、壁伝いに腰を落としていき、目蓋を閉じて若干顔を埋め乍嗚咽を漏らし、儚げに長い睫毛を濡らして。