>>30屋外に出ると晩夏の夜風が温く吹いていた。「こちらをどうぞ」案内係が誘うままに二頭立て馬車へと向かう。御者が馬車の扉を開けると、先にロシャがドレスを翻し柔らかな黒いソファに座り、向かいの席にディートリヒを座るよう視線で促す。彼が席に着けば御者は扉を閉め、案内係は深々と頭を下げ、馬車が緩やかに走り出す事だろう。