二階の窓辺でゆるりと道行く人々を眺めていると、不意に燕尾服の似合う男性と目が合った気がした。男性の方を瞳を細め見つめると、口元に妖艶な笑みを薄く浮かべた。一階の店前では客寄せの格子越しに艶やかな花魁達が、燕尾服の男性に甘い声で誘いの声を掛けていた。「兄さん、今夜いかがです?」「私に酌をさせて欲しいわ」客寄せの花魁達の声を聴くに、容姿も良いのだろう。その声に椿は小さくくすくすと微笑んでいた。