表情一つ変えぬ彼持つ御猪口に、両手を添えて持つ徳利を少し傾け日本酒を注ぐ。特別高価な品ではないが通の者が好むと言う水のように飲める辛口のこの日本酒は、始めに酒の注文がなければ常にこれと店が決めて出す酒だった。「今日はお一人で?お連れの方も見えた気がしましたけど」御猪口に酒を注ぎ終えると徳利を卓に乗せ、店先に見えた連れの人々の事を問う。