「嫌ですわ。初めてお会いした殿方だというのに、身の上話だなんて。私の昔話など、然して面白味も無いものですよ」酒の手を止めた彼にわざとらしく困ったような表情を浮かべ、徳利を卓に戻す。「急いた殿方は良くありませんよ。名も知らぬ殿方様」薄く瞳を細めると、そこに容易く靡く気はないという色を見せ、まだ名も知らぬ初顔合わせで深くは話さないと遠い言い回しで告げた。