>>76 影宮 詩羽
ふふっ。ふふふ!詩羽くんは特別に美味しそうだから、衝動的に食べちゃうなんて、そんなもったいない食べ方なんてしないよ。食べるならもっとちゃんと下拵えをしてから、詩羽くんだけを見て、そして大事に大事に食べるねぇ( 食事の許可が降りると嬉々として大きなランチボックスを膝の上に広げるその途中、お腹がすいたから彼のことを食べるだなんて今となってはそんな勿体無いこと出来るわけがなかった。だからこそきゃらきゃらと無邪気に鈴を転がすように笑い声をたてて否定をし、ただその否定は彼の事を食べてしまうこと自体に対する物ではない。なんだかんだ流れて行ったが、先ほどしたのは一歩間違えれば彼の身が危うかった、まさに命のやり取りだったわけで。彼の柔らかそうな肉も、きめ細やかで舌触りが良さそうな滑らかな皮膚も、その内側に流れるだろう赤いジャムも、彼を形取る全てが『 美味しそう 』だと云うことは変わらないらしい。疑問を持たれた彼の言葉に寂しがるような困ったようなそんな表情を見せて「 くまちゃんは人も牛も豚も犬も猫もなんだって食べるのよう。でもね、小狐くんがだめだって言うの。だから小狐くんが作ってくれた時は〜……ほらねぇ、今日は牛さんのサンドウィッチ。 」犬も猫も。本来生き物としてのあり方は大熊の方が正しくて、彼女にとっては等しく形の違う食べ物でしかないのだろう。だから、そんな大熊に大事に食べてあげると言われることは案外光栄なことなのかもしれない。カパッと蓋を開けばその中には全部で一斤のパンが使われているのではと云うほどのサンドウィッチが並ぶ。定番のタマゴサラダにハムとレタスやトマトを使ったもの。たっぷりのローストビーフが使われたそれがメインらしく、肉食の大熊が空腹でジョバンニを食べてしまわないように多すぎるほどたくさんの肉が使われていた。たっぷりの生クリームと多種に渡るフルーツサンドがデザートとしてランチボックスに並ぶ中で、一番心を震わせたのは彼を連想させる目に配色された赤のラズベリーがチョコレート生地のパンに挟まれたもの。他には目もくれずにそれを真っ先に手に取るとにっこりとした甘えた笑顔で彼の口元へ差し出して ) ラズベリーとチョコレート、詩羽くんとくまちゃんみたいだから。詩羽くんにあげるねぇ、───ね、おくちあけて。あ〜んって
___
いえいえっ、ご都合の良い時にお願いしますね。