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>ハイネ

「……そう、ですか」
　使うことのなかったネクタイを再びしめることはなかった。ウィリアムの表情は不安に満ちていたが、それはこの部屋に刻一刻と近づく死の恐怖というよりも、目の前の人物への心配が勝っている。
――調子が狂うってのはこのことだ……。
　屋敷の中では敵などいないと思っていた住人の負傷、痛いと呟かれた言葉。自分のような力もないちっぽけな人間に心配されるのも癪だろうが、いつも自信たっぷりに見える彼がどことなく落ち込んでいるようにも見えてしまう今の状況では仕方がない。
「……よし、早くここを出ましょう。傷口をきれいにして固定していれば痛みもすぐに引くはずですから！　大丈夫です」
　励ますように言い添えて再び手紙の内容を確認、砂時計を一瞥してハイネへと向き直る。
「内容も簡単そうなものです、至って平和的ですよ。もちもちってのが、よく分かりませんけど……」
　兎にも角にも頬をどうにかするらしい。緊張しながらも灰色の肌に手を伸ばす。自分から彼らに接触しようとするなど思っても見なかったことだった。