>>リンデン姫( >>104)
……貴女は寛大な女性(ひと)ですね。
(立派な大人が弟に嫉妬だなんてと謗られてもおかしくないのに、余裕のない男だと失望されても仕方がないのに。姫の吐息や視線は落胆ではなくもっと甘くて深くて包み込むような意味を孕んでいるように見えて、少なくとも罵る気はないのだとじんわり伝わったか、歩みを再開させる間際、微笑を返して。何を話すか迷っている様子を悟りつつ「 ――これよりお連れするのは、庭師も弟達も知らない私の秘密の花園です。鍵を持つのは私と、特別に信頼を置く一人の使用人だけ。彼にすら、私の指示無しに立ち入る事を禁じています 」小鳥のさえずる庭園にはきらきらと穏やかな日差しが降り注ぎ、この世の見せかけだけの平和を謳歌するようにあちらこちらへと蝶が舞う。いつもは束の間の小休止にと見守るそれらに目もくれず、隣を歩む美しいお姫様だけを見つめながら、ロマンチックな童話を語るように言葉を綴って「 誰かを案内するのは、リンデン姫…貴女が初めてです。 」姫の何もかもが自分にとって特別なのだと全身全霊で伝えるように、柔和な微笑みはそのまま向ける眼差しは愛に真剣な男そのもの。「 ですからどうか、姫と私だけの秘密に。 」髪飾りのようなリンデンの葉を、右手でふわりと触れるか触れないかの強さで撫でて。庭の一角、瑞々しい青葉を湛える生垣の迷路を淀みない足取りでエスコートを進めていると、程近くから足音が聞こえる。土を踏みしめる重みのある音から鑑みて恐らく男性なのだろう、このまま進めば鉢合わせてしまいそうなところで軽やかに半身を翻し、マントの中に姫を匿うような恰好でそっと華奢な肩を抱き隠してしー≠ニ密やかな声と共に人差し指を唇に添えて。こちらに気付いたのか否か、何事もなく通り過ぎていく足音を確認すれば吐息を感じられる距離の姫の顔を見下ろして「 ……見つかってしまうところでしたね 」楽しそうに茶目っ気たっぷりにくすくすと笑って)