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Re: 愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた_指名式、BNL ( No.107 )
日時: 2025/11/19 06:19
名前: ざざ (ID: kKmRLwWa)



 再び歩みを進められたその背を追いながら、
私はは先ほど胸の奥に飲み込んでしまった言葉たちが、
まだあたたかく息づいているのを感じていた。

けれど
次に告げられた言葉は、そのすべてを一瞬で吹き飛ばす。

 
彼が歩きながら静かに紡ぐ声。
咲き誇る花々、陽光、鳥のさえずり
そのどれもが、わたくしたちを美しい童話の中へ誘うようで。
そして彼の言葉は、その中心に灯りを落とした。

そんな場所に
私を、連れていく……?

花々の香りよりも強く、
日差しより眩しく、
ただ彼の姿だけが視界の焦点になってしまう。

「 誰かを案内するのは、リンデン姫…貴女が初めてです。 」


「……初めて……」

その声は、自分でも驚くほど小さく震えていた。

彼に視線は
その柔らかさの奥で静かに燃える熱が真剣さを伝える

そんな場所を
そんな大切な秘密を。
彼は、私に分け与えてくれる。

リンデンの葉を指先でふわりと触る
触れるか触れないかの優しさが、
ただそれだけで息を奪われるほど心地いい。

「…ジーク様は、なぜ……わたくしをそのように扱ってくださるのですか?」

喉から零れたのは、それだけ。
それが今のわたくしの精一杯で。
声が震えていたかもしれない。

私だけが特別なのだと、思ってしまいそうで。
そんな思い上がりはしてはいけない、と言い聞かせる自分と、
いいえ、きっとそうなのだと囁く自分が胸の中で渦巻き、
頭の中が混乱しそうになる。

生垣の迷路を進む彼のエスコートに導かれながら、
夢の中を歩いているような心地で足を運んでいた、そのとき。

足音。

重く、確かに近づいてくる気配。
次の瞬間ジーク様は流れるような動きで私を引き寄せた。

ふわりと、マントの内側に抱き寄せられ
「しー」とそっと唇に指が添えられる。

「……っ」

あまりにも近い。
吐息が触れてしまう距離。
胸が変な音をたてる。

足音が通り過ぎるまでの時間は、
土を踏む音と、
自分の心臓の跳ねる音だけが耳に届く。

そして静寂が戻り
彼がくすくすと茶目っ気たっぷりに笑った。

「……見つかってしまうところでしたね」

呆然と見上げるしかなかった。

「……っ、ジーク様……驚かせないでくださいませ……」

胸元に手を添える。
けれど鼓動の速さは驚きではなく
甘くて、熱くて、どうしようもなく幸せなもの。

言葉も、声も、想いも、
全て彼にほどけて触れてしまいそうで

それでも
その近さが、嫌ではなかった。
むしろ、このままで居たいとさえ思ってしまった。