ジーク様の口から告げられた真実は、
胸の奥にそっと落ちたのではなく
まるで氷の刃のように深く突き刺さった。
「……滅亡……?」
最初に漏れた声は、
震えていたのにも気づかないほど、か細かった。
温室の柔らかな光は何ひとつ変わらないのに、
景色の色がゆっくりと褪せていく。
極彩の魔女。
魔女の創り出した【姫】を射止めよ、というゲーム。
(……わたくし、は……)
胸の奥がぎゅうっと縮んで、
呼吸の仕方さえ一瞬わからなくなる。
目の前の美しいティーテーブルも、
注がれたばかりの紅茶も、
すべてが、幻のように遠ざかっていった。
ジーク様は、その間ずっとわたくしの反応を見つめていた。
逃げもせず、隠しもせず、
たった一人の人間としてわたくしに向き合って。
それが、胸をさらに締めつけた。
けれど同時に――
もっと深く鋭い恐怖が、心臓を内側から叩いた。
(わたくしは……“創られた姫”。
魔女が思いつきで生み出した……命?)
滅ぶ国。
抗い続ける皇子たち。
その中心に、自分自身がいるという現実。
ジーク様の言葉がすべて繋がった時、
血の気が引くのが自分でも分かった。
でも。
それでも。
わたくしを見つめるジーク様の瞳が、
あまりにも痛いほど……優しくて、必死で。
その表情にようやく私はは息を吸った。
震える声で、
それでも逃げずに。
「……ジーク様」
紅茶の湯気の向こう、目の前に座る彼を、
ただまっすぐに見た。
「わたくし……魔女の“創った姫”……なのですね」
その言葉を自分の口から出してしまった瞬間、
喉の奥が、きゅっと痛んだ。
けれど目を逸らせば、
この方の真剣さを裏切ることになる。
だから、泣くのも震えるのも許されなくて。
ぎゅっとドレスを握りしめたまま、
なんとか続けた。
震えながら、それでも言う。
涙が落ちそうになり、慌てて瞬きをして耐える。
そして――
もっと怖くて、もっと言いたくない本音を、
それでも絞り出した。
「……わたくしが……“ゲームの駒”として創られたのだとしても」
「貴方が……わたくしに向けてくれた想いまで、嘘ではないと……信じたいのです」
それが、たとえ愚かであっても。
「だから……今すぐに…この場所を知る従者の方をお呼びくださいませ」
言ったあとで、胸の奥が静かに震えた。
覚悟はとっくに決まっていたはずなのに、
魔女の創り出した姫。
勝利したら消えるかもしれない存在。
けれど。
それでも、この国が救われて、
ジーク様が生きて笑ってくれるのなら。
煌びやかな服も美味しい食事も、余計な観客もいらない
愛を誓う人と、その誓いを見届ける人さえいれば良い
「結婚式をしましょう。
今、この場所で」