大人なりきり掲示板
- Re: 愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた_指名式、BNL ( No.144 )
- 日時: 2025/11/26 11:41
- 名前: ざざ (ID: LZf.dg50)
手早く、不自然なほど慣れた手付きで手当をする皇子の手をただただ見守ることしかできない。
今はこういう皇子教育もされているのだろうか。
「……ありがとうございます。
この御恩、どうお返ししたら……」
そう言いながら、言葉の続きは喉の奥で絡まってしまった。
だって本当に、何も持っていないのだ。
地位も、財も、名も。
ただ命じられればなんでも、飛ぶ事もできない羽根だけが取り柄のメイドにすぎない私が
この国が誇る皇子に、返せるものなど一つとして思いつかない。
翼が情けないほど小さくすぼまる。
畏まらないで、と言われても、そんなの無理だ。
畏れ多すぎて、胸の奥が逆に苦しくなる。
ハインツ様は、まるで私の震えごと受けとめるように静かに跪き、
夕焼けの色を宿した瞳でこちらを見上げているだけ。
その姿がまた、現実ではありえない光景に思えて、
心臓がひとつ鼓動するたびに認識が揺らいでいく。
「いえ……お返しなんて……できるわけ、ありません。
殿下に差し上げられるものなど、私……」
そこまで言って、言葉はふいに途切れた。
あまりに身分違いで、あまりに叶わない願いで、口にすれば砕けてしまいそうで。
ただ肩がかすかに震え、伏せた視線の先、自分の両手がメイド服の布を強く握りしめているのだけが視界に入った
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