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Re: 愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた_指名式、BNL ( No.20 )
日時: 2025/11/07 12:43
名前: ざざ (ID: JC82K/KY)



胸の奥に、ひとつ熱が灯る。

けれどそれは安堵でも喜びでもなく、ただ、どうしてよいか分からぬ混乱と羞恥の入り混じった熱だった。



姫――彼がそう呼ぶたび、心の奥に波が立つ。

その呼び名は、私にはあまりに過ぎたもの。叶うはずもない、幻の称号。

私はただの一市民のはずなのに、彼の声音がやわらかくそう囁けば、

まるで魂が命じられるように「そうなのかもしれない」と錯覚してしまう。


光沢を帯びた大理石の床が、皇子の靴音を鈍く反射する。

やがて歩調がゆるやかになり、先ほどまで耳に心地よく響いていた音が静まり返った。

「あなたのような美しい姫を、これ以上誰の目にも触れさせたくありません。少々回り道をしても?」

――そのお言葉が、私の胸に柔らかく落ちた。


こわばる私の身体を気遣っての提案なのだろう。

その思慮深さが嬉しくもあり、恐れ多くもある。

どうしてこの方は、こんなにも他者に優しくあられるのだろう。


「……回り道を、ですか……」

囁くように問い返し、皇子の顔を仰ぎ見る。

穏やかな桃色の瞳と視線が合った。

その眼差しの下には、眠れぬ夜の跡――薄く滲んだ隈が見え隠れしている。

それを覆い隠すように浮かべられた微笑が、どうしようもなく痛々しく、そして、美しかった。


私はただ、静かに頷いた。

それが同意の意であることを、言葉にせずとも彼はきっと理解してくださるのだろうか。