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Re: 愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた_指名式、BNL ( No.22 )
日時: 2025/11/07 13:46
名前: ざざ (ID: uLhjJdVj)


「……冥利、に……尽きます、などと……」
 
 桃色の瞳が穏やかに細められ、微笑が形を結ぶ。
それは包み込むような優しさに満ちていて、拒むことなど到底できそうにない。
 けれど、その微笑を直視するたび、胸の奥がざわめいた。
 ――恐れ多いはずなのに。どうして、こんなにも安らいでしまうのだろう。

皇子の腕が僅かに強くなる。
その抱擁は慎ましく、それでいて確かな温もりを伝えていた。
腕の中に在る自分が、たったひとりの特別として扱われている錯覚に囚われる。そ
それが幻だと理解しているのに、抗うことはできなかった。

 ゆっくりと踵が返され、皇子は来た道を戻り始める。
石造りの壁に反響するのは、規則正しい足音と、自分の鼓動だけ。
時間さえも、この人の歩みに合わせて静まり返っていくようだった。

そういえば、本日は何故庭園に? お仕事ですか
と穏やかな声音が降る。

何気ない問いかけ
けれど、その柔らかな響きが、妙に胸の奥に沁みた。

「……お仕事、というほどのものではございませんわ。
ただ、陽の光を少し浴びたくなりまして。
これが、…わたくしに唯一許された自由になれる時間ですの」

最後の言葉は、自分でも驚くほど掠れていた。
視線を逸らした先には、長く続く廊下。
その先に広がる世界を、見てみたい
そんな小さな願いが、静かに胸の内で膨らんでいく。

「殿下は……なぜお庭に?」
 自分のせいで、大切な時間を奪ってしまったのではないか
そんな不安が胸をよぎり、思わず問いを零した。