電話をかけた頃には、まだ少しだけ太陽が顔を覗かせていたはずなのに、
ふと窓の外を見れば、すっかりと夜の帳が降りていた。
こんなにも時間が経っていたのかと、皇子の言葉でようやく気づく。
「素敵な夢を」以前と同じ言葉に、胸の奥がそっと温かくなった。
「おやすみなさいませ。
どうか安らかな夜を迎えられますように」
私もまた、あの日と同じように言葉を返す。
馬車に乗り込み、皇子と別れたあの夜。
けれど今日は、不思議と心が軽かった。
明日の約束がある
それが今はどの子守唄よりも心地が良い
***
約束の日の昼下がり。
手持ちのドレスの中から、一番品のあるものを選ぶ。
本来なら18時以降のディナーには、肩や胸元の大きく開いたイブニングドレスがふさわしいのだろう。
けれど、肌を露わにすることへの抵抗と、そもそもそうした場に赴く機会もなかったため、一枚も持ち合わせてはいない。
白いドレスに袖を通し、長い髪を枝に触れぬよう注意しながら、ゆるやかにハーフアップへと整える。
装飾品は持ち合わせておらず、あまりに質素な姿に、鏡を見つめながら思わず小さく笑ってしまった。
(きっと、煌びやかで美しい異国の姫君を数多くご覧になってきたジーク様には、
貧相に映ってしまうかもしれませんわね)
失礼にあたらなければよいのだけれど……。
そう頭を悩ませつつ、まだ早い時間に家を出た。
少しでも早く外に出たかったのだ。
大好きな本に囲まれた図書館で過ごし、
あの静かで落ち着く庭をゆっくりと散策する
それは、私にとって何よりの癒しだった。
時間などいくらあっても足りない。
まして今日は、ジーク様とのディナーが待っている。
落ち着いて待つなど、到底できそうになかった。
***
本と十分に戯れたあと、王宮へと足を運ぶ。
何度見ても、その外観は息をのむほど壮麗で
やはり、いつまで経っても慣れることのない光景だった。
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〆ありがとうございます!!
早くディナーデートとロメロ様にお会いしたかったので王宮に足を運ばせてしまいました…
準備描写は趣味みたいな物なので適当にすっ飛ばしてもらえたら嬉しいですー!!