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Re: 愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた_指名式、BNL ( No.70 )
日時: 2025/11/14 18:22
名前: ざざ (ID: HuynY/aq)



 彼が浮かべた、舞台めいた誇張のない純粋な笑み。
それが目の奥までやさしく染み込み、気づけば視線がそっと伏せられていた。

 「君が着るから輝ける」
そんなふうに言われたことが、世辞でもこれまであっただろうか。

先ほどからころころと表情を変える彼に、心が追いつかない。
哀しげな声音を零していたかと思えば、次の瞬間には楽しげに笑う。
ゆらりと向けられた薄紫の瞳に、胸の鼓動が跳ね上がる。

「……ジーク様と?」

まさか、と胸中で否定が浮かんだその時にはもう、いつのまにか距離を詰められていた。
顎先へ触れる指先の感触は、あまりにも慣れないもので
人の手が肌へ触れるというだけで、息がわずかに震える。
そして、顎先から唇へ。
瞬く間に熱が耳朶へ昇り、逃げるように息を吸った。

「……気をつけますわ」

それでも、流されないようにと凛と姿勢だけは崩さぬよう努める。
手渡されたドレスを宝物のように胸へ抱き、誘われるまま試着室へ足を進めた。

「手助けが必要ならいつでも」
やわらかな声音を背に聞きながら、試着室の中央でゆっくりと振り返り、
「ありがとうございます」
と静かに頭を下げた。

顔を上げた先のロメロ様の笑みには、どこか含みがあった。
外側からカーテンが閉じられ、その意図を探ろうとするが
結局、考えるのをそっとやめる。
彼のことは、考えれば考えるほど迷子になる。

「……リンデン、とお呼びください、ロメロ様」

出会ってから心落ち着ける暇もなく、名乗りそびれていたことをいまさら思い出した。
着ていたドレスを外しながら、外にいる彼へ届くように名乗りを告げる。

「名乗りが遅くなったこと……どうぞお許しくださいませ」

完全にドレスを脱ぎ、枝にひっかけぬよう細心の注意を払いつつネイビーのドレスへ腕を通す。
価値あるものを傷つけまいと慎重に、ゆっくりと。
けれど後ろへ手を伸ばさなければ、どうしても着付けが完成しない。

(……届くには届きますけれど……引っかけてしまったら……)

迷っている間にも、刻一刻と約束の時は近づく。
先ほどのやわらかな言葉を思い出し、羞恥を喉の奥へ押し込んで

「あの……どうか、手助けいただけないでしょうか……」

カーテン越しでも聞こえるように、けれど少しだけ弱々しく。
助けを求める声が、室内へそっと滲んでいった。