耳元に落とされた「可愛いお姫さま」という囁きが、
いつまでも消えずに鼓膜の奥で震えている。
褒められることに慣れていないなんて、きっとすぐに見抜かれたのだろう。
けれど彼はそれを嘲るでも甘やかすでもなく、
まるで事実を静かに示すように「それは違うよ」と告げた。
鏡越しに視線が絡んだ瞬間、
胸の奥に触れられたような感覚が走る。
私自身が知らなかった“潜む魅力”などと言われても、
どう受け取ればいいのかわからずにいた。
「もうこれで決まりだね」と迷いなく言い切る声音が心地よく
そして、差し出された靴、エナメルの光沢が、まるで私の行き先まで照らしてくれるように思えた。
来た道をロメロ様の誘導されるがままに約束の場所まで戻っていく。
庭園まで、あともう少し――
そんなところで彼はふいに足を止め、「この辺で」と告げた。
唐突な別れの合図にもかかわらず、
茶目っ気たっぷりに片目をつむって見せる仕草があまりにおかしくて、けれど可愛らしくて、
抑えきれずに小さく笑ってしまった。
「はい、素敵な魔法使い様……また」
肩からショールが滑り落ちぬよう片手でそっと留め、
もう片方の手を――品よく、控えめに、必ず次があるのだろうと気持ちを込めて
ひらりと振り返す。
ロメロ様の姿が完全に見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
静かに息を整えると、胸の奥でふっと何かが定まる。
ショールを抱き直し、足元の新しい靴が軽やかに床を叩く音を確かめながら
ジーク様と初めて向き合った、あの約束の場所へ。
ゆっくりと歩みを進めた。
まるで物語の頁をそっとめくるように、
胸の内で小さな期待と緊張が同時に息を潜めでいく。
ーーー
ロメロ皇子が素敵すぎて私がときめいてしまいました…!!
選んでくださったドレスもセンスが良い〜!!!!と勝手に騒いでます…、ありがとうございました!
もしご面倒でなければ楽しいので飛ばさずぜひこのまま進めていただきたいです。