視界の先にジーク様の姿を認めた瞬間、
心臓から全身へと熱が巡っていくのがはっきりと分かった。
誰かと会えることを、こんなにも嬉しいと感じたのは初めてだった。
絹のように滑らかな黒髪。
柔らかな桃色の瞳。
その下に刻まれた夜の跡まで――あの日と変わらないまま。
「お待たせ致しました、姫。」
恭しく頭を下げるその所作が、
以前よりわずかに丁寧に見えたのは、私の気のせいだろうか。
私は裾を軽く摘み、深く会釈を返した。
「……お待ちしておりました、ジーク様」
電話越しの声よりもずっと澄んでいて、
耳に触れたその響きが心地よく胸の奥まで染みていく。
「いつも美しいですが、一等美しいですね。」
美辞麗句を言い慣れているはずの皇子にそう告げられると、
どれほど平静を装っても胸が静まらない。
ドレスには触れず、ただ“私”そのものを褒めてくださったことが、
かえって心を揺らした。
「……ありがとうございます。
ジーク様にそう仰っていただけるなど、光栄に存じますわ」
穏やかな笑みを浮かべながら、
裾が乱れぬよう慎ましく姿勢を整える。
差し出された腕に気づいたとき、一瞬だけ迷いが過った。
けれど、その迷いをそっと胸の内に押し込み、指先を添えて腕を組む。
最後に会った時よりも
ほんの少しだけ距離を感じてしまうのは、それも私の気のせいだろうか。
「……はい」
歩き出す彼の歩幅に合わせて進み、
王宮の一室へ案内されるままに腰を下ろす。
けれど、座ってからも胸の奥でざわめいたものは、
最後まで静まってはくれなかった。
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ジーク様ももうとても素敵なので…!!リンデンに頑張らせますね!!
あ!!大切なお母様のドレス着せて良いの!!??と迷っていたのですが…、複雑ですよね…ごめんなさいジーク様…!!
どきどきディナー楽しませていただきます、引き続きよろしくお願いします!