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Re: 愛しきプシュケの式日に、ルサンチマンは嘯いた_指名式、BNL ( No.83 )
日時: 2025/11/16 10:14
名前: ざざ (ID: l6KRDtx2)

 

 私の変化を、彼はすぐに気づいた。

「どうされましたか。其のように泣いてしまわれては、
 私と食事を共にするのが其れ程嬉しいのかと、自惚れてしまいます。」

困ったような声音なのに、
その眼差しには――どこか嬉しさが滲んでいた。

「……違、……いえ……違うわけではありませんね。
えぇ、ジーク様とのこの時間が……
わたくしには勿体ないぐらい温かくて嬉しいようです。」

自分でも何を言っているのかよく分からず、
涙がこぼれそうになり、思わずうつむいたその時。

椅子がわずかにきしむ音と共に、
ジーク様がそっと席を立つ気配がした。

そして、温度を帯びた指先が静かに目尻へ触れる。

「……!」

その瞬間、胸の奥が跳ね上がる。
涙を拭われた恥ずかしさなのか、
触れられた温もりのせいなのか、
心が騒がしく動く。

「……申し訳ありません……」

震える声でそう零し、
乱れそうな心を押しとどめるように、
深く息を吸い込んでゆっくり吐き出した。
楽しい場に似つかわしくない感情を、そっと奥底へ仕舞い込む。

その間にテーブルへ並べられたのは、
香り高いブイヤベース、艶やかに煮込まれたコック・オ・ヴァン、
口直しの涼やかなソルベ、そして温かなブールパン。
一気に華やぎ満ちる食卓に、自然と息を呑む。

特にブイヤベースの立ち昇る湯気を眺めていると、自然と胸の奥が期待で高鳴った。

「いかがですか。」

促され、フォークを器用に添えてひと口。

「……とても……豊かで深い味わいですわ。
サフランの香りがやさしく広がって……心がほどけていくようです」

白ワインとの相性も良く、
気づけば自然とグラスが進んでしまう。

涙の名残はまだ微かにあるのに、
それでも頬には穏やかな笑みが浮かんでいた。

ジーク様と向かい合い、
温かい食事を、温かい言葉を
こうして確かに分かち合っている。

それがこんなにも胸に沁みてしまう。