私の変化を、彼はすぐに気づいた。
「どうされましたか。其のように泣いてしまわれては、
私と食事を共にするのが其れ程嬉しいのかと、自惚れてしまいます。」
困ったような声音なのに、
その眼差しには――どこか嬉しさが滲んでいた。
「……違、……いえ……違うわけではありませんね。
えぇ、ジーク様とのこの時間が……
わたくしには勿体ないぐらい温かくて嬉しいようです。」
自分でも何を言っているのかよく分からず、
涙がこぼれそうになり、思わずうつむいたその時。
椅子がわずかにきしむ音と共に、
ジーク様がそっと席を立つ気配がした。
そして、温度を帯びた指先が静かに目尻へ触れる。
「……!」
その瞬間、胸の奥が跳ね上がる。
涙を拭われた恥ずかしさなのか、
触れられた温もりのせいなのか、
心が騒がしく動く。
「……申し訳ありません……」
震える声でそう零し、
乱れそうな心を押しとどめるように、
深く息を吸い込んでゆっくり吐き出した。
楽しい場に似つかわしくない感情を、そっと奥底へ仕舞い込む。
その間にテーブルへ並べられたのは、
香り高いブイヤベース、艶やかに煮込まれたコック・オ・ヴァン、
口直しの涼やかなソルベ、そして温かなブールパン。
一気に華やぎ満ちる食卓に、自然と息を呑む。
特にブイヤベースの立ち昇る湯気を眺めていると、自然と胸の奥が期待で高鳴った。
「いかがですか。」
促され、フォークを器用に添えてひと口。
「……とても……豊かで深い味わいですわ。
サフランの香りがやさしく広がって……心がほどけていくようです」
白ワインとの相性も良く、
気づけば自然とグラスが進んでしまう。
涙の名残はまだ微かにあるのに、
それでも頬には穏やかな笑みが浮かんでいた。
ジーク様と向かい合い、
温かい食事を、温かい言葉を
こうして確かに分かち合っている。
それがこんなにも胸に沁みてしまう。