大人オリジナル小説
- 01 「もしも私が病気なら,それはきっと精神不安定病」 ( No.1 )
- 日時: 2010/03/26 20:28
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
第一章 救いの天使
01 遥か先の未来
幸せなんてすぐに逃げていくものよ。
そんな事ない,幸せはずっと幸せだよ。
所詮ある日突然奪われるのよ。
お願い,そんな事いわないで。
*
己の中の天使と悪魔の口げんかの夢。私は何度見ただろうか!
最悪の目覚めで少しだけ不機嫌な美早希は嘆く。
「何でこんな夢ばっかり……」
理由はとっくに分かってるはずなのに。見る度に嘆く自分に呆れる。
手鏡を取り出し,膝の裏にある切り傷跡を見つめる。痛々しく走ったその赤い跡は,見るだけで悲しくなってくる。何があったかは大方予想はつくであろう。
「死にたがりだもんね…私」
相手に笑っていてほしいから生きる。相手が笑っていないから死にたくなる。
ピエロは素顔を見せない。見られたら死ぬか殺すか。
そしてピエロは常に助けを求める。首吊りロープも刃物もみんな仲間さ。
素顔を見られてはならないからこそ,素顔を見せられる仲間と救いを求める。ピエロ同士でさえ,素顔を見せられないから困る。
枕もとの小物入れには手鏡,消毒薬,絆創膏,コットン,ハンドクリーム,そして小さなカッターや裁縫バサミ。それらがぎゅっと詰まった魔法の小物入れ。
女の子らしい,ピエロらしい。そんなイメージを目指してつくった魔法。持ってるだけで,安心する。
だから,手鏡だけとは言わず,小物入れごと抱きしめる。逃がさないよ,とでもいう様に。
「そろそろ先の事,考えなきゃ」
これ以上【精神的】傷を増やせば,将来の生活に支障が起こるかも。それは困る。
だからといって,ピエロは行き当たりばったり的なところがある。まして,遥か先の未来の事なんて考えようともしない。
美早希はまだ中学生にもなってない。ちゃんとした生活をおくれてるのに,こんなのにも深い闇を抱えてる小学生はおそらく日本で美早希だけだろう。
深い闇。何も分からない,真っ白と真っ黒。
たまに真っ赤。何も見えない,瞼を持ち上げても,ここが瞼の裏か本当に今己がいる空間かわからない。
そのうち,己が誰かもわからなくなる。
……一種の病気かもしれないな,と美早希は思う。
「でも,病気だった時はちゃんとこの病気治してよね,希美」
「死にたがりピエロさん,お次はどこのサーカスへ?」
「きっとまた森の奥。迷える子羊しか来ませんよ」
「そんなことないわ,私(ワタクシ)が行って差し上げますから」
「光栄,光栄。だけど危ないからお嬢様はお帰り下さい」
01/終