大人オリジナル小説
- 10「死にたがりは自殺をした,精神世界で自殺をした」 ( No.19 )
- 日時: 2010/04/03 22:19
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
10 覚醒
刃物が現れる。それも,切れ味が抜群そうな,小さな包丁。
カッターナイフではなく,この包丁で手首を切れば,痛みから解放され死ねるのだろうか。
「…はっ,無理に決まってんじゃん。ここは現実じゃないのよっ!」
そう叫び,美早希は包丁の刃を手首にふりおろした。
ざくり。
肉が裂けるような,心地の悪い音。
噴き出す血。慌てて抑えても,水が出ている蛇口を押さえたように,飛び散る。血飛沫。
「きったなぁい……」
その言葉を最後に,美早希の意識は暗転した。
*
目を覚ませば,部屋だった。
手首に傷はなく,袖をまくしあげ二の腕を見ると,案の定傷だらけ。汚くなった肌を見て,美早希は「あーあ」と何の意味もない言葉をこぼした。
血液は酸素に触れて,ところどころ黒くなっている。乾いてカタマリになってるところもあるが,ほとんどが服の内側に染みついたみたいだ。汚い,汚い。
美早希は眠る前に小物入れを投げ捨てたのを思い出し,はっとしてゴミ箱を見る。幸い,血が付くなどして汚れてはいなかったみたいだ。美早希はあまりゴミを出さないので,それもあるのかもしれない。
散らばった中身を拾い集め,小物入れの中に入れる。裁縫ばさみも,絆創膏も,消毒薬もコットンも。
「大事な物だから」
全部入れて,抱きしめた。
新しいカッター,買ってこなきゃ。
切りたくなった時に,切れるように。
美早希は,【切りたい衝動】に抵抗しようとしてなかった。
【リストカット症候群】に,なりかけの頃。
「傷は深い」
「谷底まで」
「落ち沈む」
「冷たい闇」
10/終
PR