大人オリジナル小説

02 「埋められた穴は,結局また空いてしまうのに」 ( No.2 )
日時: 2011/03/20 22:49
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

02 見えない穴


 癒しの場所。――美早希にとっての学校はそれだった。
 傷を癒し,傷を増やし,また癒し。エンドレス,虐めのループの様だと美早希は思う。
 楽しみであると同時に憂欝でもある学校に行く途中,ほんの少し前の事を思い出した。


*

 教室に入れば迎えてくれる友達,笑う男子,いつもの明るい教室。それが癒しで,時に恐ろしくて。怖くて怖くて,たまらなくて。
 美早希は自分が酷くあいまいな境界線を持ってるんだと知った日から不安定である。幼い頃の記憶,もう消えたはずの傷はまだ痛んで,いつ傷口が開くのかと思うと,怖くて。

「私はどこにいるの」

 一度呟いてみた。騒がしい教室のはずなのに,美早希が口を開いた途端水を打ったように静まり返った。彼女の声は高く,通りやすいというのもあるのだろうが,美早希の声には不思議なオーラがあるからだろうか。

「あ,君私と同じ事言ってる」

 誰も返事しない,時が止まった教室で唯一動けたのは「希美」。
 美早希とは一度も話した事のない少女で,明るく良い意味で目立つ少女だった。世話焼きで,全体的に頼れるイメージのある希美。

「お,同じ事…?」

 美早希は考えるより先に言葉が出た。正直な言葉だった。


「そ,同じ事」

 希美はそれ以上何もいわなかったが,美早希には彼女が何を「言っているのか」,理解できた。彼女の表情が,まなざしが,何を言わんとしているのかを物語っていた故に。
 ――そっか,仲間なんだ。

*

 あの時の衝撃は忘れられない。
 築いた特別な関係は,崩れやすいけれども。

「この心の穴埋められるの,あんただけなのよ」

 美早希はポソリと,自分でも聞き取れないほど小さな声で呟いた。
 幸せそうな周りの笑い声とはしゃいでる声に,すぐにかき消されてしまった。





「どうしてどうして」
「一緒だから」
「何も聞いてないのにどうして分かるの?」
「貴女が私と同じだから,一心同体だから」


02/終