大人オリジナル小説

痛みがどれだけ苦しいものか,わからないほど馬鹿じゃないでしょ ( No.210 )
日時: 2011/03/06 12:18
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

 人の心が,形あるものが,いつか変わり果て,崩れ去るものだと言うのならば,わたしはこう反論しよう。
 いつか変わり果てるから,いつか愛も朽ちるから。そういって,自らを世界と切り離そうとするなら,わたしはこう教えを説こう。


「だったら,変わるまでの短い間を満喫すれば良いわ。
愛しても良い。縋っても良い。宝物,と腕の中に閉じ込めても良い。歪んだ愛を受けるのはお断りだけれど,それでも,歪んだ愛はいつだって何よりもまっすぐで恐ろしく純粋なものだもの。
大切にする何がいけないというの。それを恐怖する心が,大切を拒むの? つまり臆病で,自分が拒まれた時に傷つくのが怖いの?
ばかみたいよ。ばかだわ。

自分は最初から諦めて拒んでる癖に,拒まれた時に傷つきたくないーって。自分は求められてるのに,愛を受けてるのに,それをわざわざ突っぱねて,「誰もぼくを求めてないんだー」って悲劇の主人公気取り。ばかじゃないの。
最初っから拒否される方が何億倍も辛いに決まってるわよ。どんな過去をもっていたとしても,痛みは必ずしも過去に左右されるとは限らない。
知ろうとしてくれてるのに,自分に手を伸ばしてくれてるのに,その手を振り払って,離して,背を向けて。それでも諦めたくなくて,追いかけて追いかけて,でも振り向いてくれなくて。
嫌になって,踵を返して立ち去れば,またひとりでわーぎゃー喚き泣く。「ぼくは結局一人ぼっち!」そんな自分が可哀想で仕方ない,ってね。

知りもしないで愛されたいなんてばかげたこと言ってんじゃないわよこの甘ちゃんが。
いつかを恐れて,今を空白にしようなんて,そんなんじゃ痛みを和らげる薬も,心の傷をそっと包んでくれる愛情も手に入らないにきまってる。



崩れる時が怖いのは,誰だって同じ。自分だけ,なんて言って突き放すのはもうお終い。
せめて,崩れる時も傍にいれるような人を探しなさい」




 幼いわたしは,何様なのだろう。
 途中でそう思ったけれど,でも,傷の痛みを良く知ってる人たちの中で育ったから。


 悲劇の主人公にはなれないわ。
 喜劇の女主人公,そして脚本家・演出家ならば,やってみせようか。主人公を支える脇役を,演じて見せようか。


 上等だわ,と笑ってやる。