大人オリジナル小説

14「時間がない走らないと間に合わない足が壊れて動かない!」 ( No.250 )
日時: 2011/06/05 10:26
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

14 情報屋さん



 あれ,希美の家ってどこだ。
 美早希は外を出た時に気がついた。


 何故最初に気がつかない……そう思って,自嘲するように笑い,歩いて数分の幼馴染・陽子の家へ向かった。
 陽子は基本的に家にいる。インドア思考なのだ。外に出るのは,あまりない。

 インターホンを鳴らして,自分の名字を告げる。はーいと言う声と,ぱたぱたとした足音が近づいてくる。
 がちゃり,と開かれたドアの向こうには,陽子の母が居た。


「お久しぶりです」
「あら! やっぱり美早希ちゃんだったのね,久しぶり。陽子かしら?」

 茶色っ気のある長髪を一つに束ねたその人は,若々しく綺麗である。年相応の肌ではあるのに,表情がとても魅力的だからか。美早希は会う度にそう思った。
 はきはきと喋る彼女につられ,美早希も微笑む。


「そうです,今居ますか? 居留守はなしですよ」
「ふふ,居るわよ。居留守も使わないわ,何度も見破られてるもの。じゃあ,上がって,呼んでくるから」
「では,お言葉に甘えて」

 美早希は陽子の母――日向子(ヒナコ)が二階へ繋がる階段へ消えて行くのを見届けてから,リビングへ向かった。
 勝手知ったる他人の家。お泊まり会も度々開いていたためか,家の構造は全て頭に入っている。
 ソファーに腰かけ,ぼんやり,日向子が出てくるのを待っていた。

 とん,とん。降りてくる気配は,ひとつだけでなかった。


「お待たせしちゃったわね,じゃあゆっくりしていってね。ジュースとお茶,どっちが良いかしら?」
「あ,聞くこと聞いたらすぐ帰るんでお構いなく」


 日向子はその言葉を聞くと,ふわりと笑ってキッチンへ歩いていった。
 美早希の,もう一人の母のような日向子。きっと,彼女のことだ。美早希と性格から,「大事な用がある」というのを察したのだろう。
 美早希は感謝した。


「で,何の用よ?」


 日向子の後ろをついていた陽子は,日向子を見送ったあと陽子は美早希の正面に座り,ふてぶてしく言った。
 ほう,これはゲームをしていたが邪魔され不機嫌になりそうな時なんだな。美早希は心の中で笑った。悪いことをしてしまった,さっさと聞いてさっさと行こう。


「希美の家,教えてちょうだい」


 そう言った途端,陽子は目を大きく見開き,「はぁ!?」と叫んだ。キッチンから日向子の「どうしたのー?」という声が聞こえてくる。陽子は慌てて「なんでもなーい!」というと,美早希の耳元に口を近づけた。


「どうする気なのよ,あんた。希美となんかあったの?」
「そうだよ。だからさっさと教えて,道と場所をね」

 陽子はしばらく硬直していたが,やがて大きな溜息を吐いて,「わかったよ」としぶしぶ言った。
 「ただし」。言葉を重ねた。

「個人情報だから大切に扱ってね」
「お前が言うな,わかってるわそんなん」

 陽子は笑った。













「ほらほら早く行かないと」
「消えてしまうわ,あの雲は」
「紅い雨降らして」
「泣きながら」



14/終