大人オリジナル小説

15「どこに行ってしまったの、貴女は私の目の前にいるのに!」 ( No.251 )
日時: 2011/05/23 22:24
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

15 見つけて


 希美が目を覚ましたのは,鈴蘭畑だった。
 小さく可憐な,毒を持った白い花。
 この花を潰してしまえば。希美はぼんやりと思った。

 夢の世界か,はたまた死後の世界か。出来れば後者であってほしいと,くすりと笑みを零した。


「眠たい」


 甘く控えめな香りが,眠気を誘って。精神的な疲労も相まって,希美はくらりと倒れた。くしゃり,鈴蘭が潰される音。彼女はひとりでわらった。
 例えば,このまま眠ってしまえれば。
 目を,閉じた。


*


 美早希は走っていた。何故だか急に,歩いてはいられなくなった。
 早く早く早く,そうでないときっとあの子は……。
 どこからくるともとれないその感情について考える暇はなかった。「流される」しか,選択肢は与えられない。
 嫌な,予感だった。


「…っここ?」


 美早希が立ち止ったのは,至って普通の一軒家。
 奔放で,それでいて縛られているような,不思議な希美には少し不似合いだと,彼女は思った。
 途端,最悪なことが起きるような気がした。起きているような気がした。
 悪寒にも似た震え。美早希は,荒い呼吸を整えることもせず,インターホンを押した。返事はない。
 早く誰か出てきて。思わず地団太を踏んだ。
 いっそのこと,開けてしまおうか。不用心にも,そのドアはかぎがしめられていなかった。

 初めて来る家に,これはないだろうと思ったが,それを考える余裕はない。

 靴を脱ぎ捨て,「おじゃまします」とやけくそに叫び,希美の気配が漂う方向へ歩いて行った。
 美早希は勘が鋭かった。



 辿り着いた部屋の前。「希美」と整った字で書かれたプレート。茶色く四角いドア。そっとドアノブに手をかける。鼓動は,うるさい。
 かちゃり,とドアを開いた。


 目に入ってきた光景を,どう表せば良かろうか。







「間に合わなかった?」
「いや,まだ大丈夫」
「例え真っ赤に」
「染まっていても」


15/終