大人オリジナル小説
- 17「この大きな穴を,埋めてくれる何かはありませんか」 ( No.253 )
- 日時: 2011/05/26 20:54
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
17 第三者の目
陽子は,ベランダから美早希が走っていく姿を見届けていた。二階にある自室。ベランダは見渡しが良い。冷えた風が頬を撫でる。
ぼんやりと見つめていたその姿。何か目的があり,そのために走っていけるのか。ああ,そういえば彼女はそんな少女だったな。幼馴染を思った。
そっと,心臓があるところに手をあててみる。鼓動が伝わる。とくんとくんと,血を全身に送り出しては迎え入れるそこ。空っぽではないらしい。
「……なにか,やりたいことを見つけられれば,なにか違うのかな」
ぽそりと呟いたそれは,思いの外響いた。
うらやましい。
陽子は目を伏せて,部屋に戻った。美早希の姿はとっくに見失っていた。
誰もが,この目で確認できないところまでいってしまうのだ。陽子は,血液を体中に巡らせるそれがなくなってしまったような感覚に陥った。
*
陽子はその幼さにして情報屋だ。
危険なことはせず,しかし人の弱みを握り,その人の情報を集める。
暗躍してきた。
そんな日常の中,幼馴染がある少女と話した,という情報を手にした。
「……へえ」
学年の中でも綺麗な容姿の,明るい,だけれど内に秘めた狂気は計り知れない,少女。
話したことは数回。その度に思うのは,「この子は危険だ」ということ。
美早希とちゃんと合うかねえ,陽子は思った。
崖の淵に片足で,目隠しをして立っているようなバランスの悪さを持ったあの子と,幼馴染。
少しだけ,笑った。
*
アンバランスなその関係。すぐに壊れてしまいそうに脆いくせに,頑丈。
うらやましい。
陽子はもう一度,そう思った。
「怖がり強がり見守りたがり」
「構われたがり愛されたがり」
「そんな彼女は」
「流す涙も持ってない」
17/終
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