大人オリジナル小説
- こどものときだけ、だと思うんだ。 ( No.255 )
- 日時: 2011/05/28 22:53
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
「お前のそれは,同族嫌悪さ」
「あたし」は「あたし」を嫌うクラスメイトに語りかけるように言った。膝を抱えて俯く彼に,視線を合わせるように,「あたし」もしゃがみこんだ。
結構な身長差を,気にすることもなかった。
「お前が,何かを抱えてるってことはわかる。伊達に色々な闇をこの目で見つめてきたわけじゃないさ」
びくり,肩が跳ねた。怯えに耐えかねるように,少しだけ震えていた。
「きっとお前は,姉弟関係に悩まされてきたんだろうね」
彼の,膝に爪を立てた指は,力を入れ過ぎて白くなっていた。
少年らしい,しなやかで骨ばった指だった。
「なに,あたしは誰かと誰かを比べる真似はしないよ。そんなつまらないこと,したくもないね」
腕に埋めた顔を,片目だけ「あたし」に向けた彼の姿を,「あたし」は優しく見つめた。
「お前はそうじゃないかもしれないけどね。だけどそんなこと,どうだって良いのさ。あたしが求めるのは,「己の気持ちをはっきりさせておくこと」だからさ。それが出来ないと,何もできなくなって,身動きもとれなくなってしまうんだ」
お前も,あたしが嫌い,って感情ははっきりさせとけよ。
「あたし」は少しだけ,楽しそうに言った。
「あたしはあんたのこと,「変だけど何か抱えてるどうでも良いやつ」って,はっきりさせとくからね」
*
そいつは俺に向かって語った。すわりこんだ俺の前にしゃがんで,教室で友人と話してる時や前に立って話す時とはまるで違う声音で。
何か,色々な物を知ってる声,な気がした。
そいつは,俺を「姉弟関係で悩んでるんだろう」と,「あたしを嫌う奴」と言った。
悔しいことに,大当たりだった。
嫌いな奴に見破られたこと。嫌いな奴が俺に語りかけてくること。
どちらも吐き気がすることなのに,「どうでも良いやつ」と言われたことが何故か無性に悲しかった。
+
子供の今は、たくさん嫌いになれば良い。
お前が満たされないだけだから。
満たされたければ、五感を働かせ、好きなものを見つけようとすれば良い。
大人になったとき、きっとお前のためになるはずだから。
簡単に言ってくれるな、って?
そりゃあ、簡単じゃないってことくらい理解しているさ。事実、私だって苦労したからね。
だけどその分、のめり込んでいるよ。見つけたそれにね。
ほら、九十九回叩いてもあかなかった扉が、百回目にはあくかもしれないだろう?
不確かだが、確かに存在する希望を手に入れようと、もがくのさ。
みっともないのが、私の生きざまだからね。