大人オリジナル小説

Re: リストカット中毒 ( No.275 )
日時: 2011/08/09 16:58
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

 画面越しの世界は,自分が想っているよりもうんと広く大きいことを,震災で理解した。
 今私が立ってる場所が誰かから見た画面越しだとしたら,それは少しだけ可笑しなことだわと笑った。


 忘れない。
 大きな揺れと,みんなの悲鳴と泣き顔と,倒れ錯乱した荷物や本を。
 置いてきてしまった大切なものを取り戻しに行けない,悔しさと悲しさを。
 見送るときの不安を。失うかもしれない恐怖を。身近な人の恐怖を全身で感じる緊張感を。親しくない後輩の悲しげな表情を。真っ直ぐに立っていられない校庭を。

 教室は,私達が笑っていた場所。悲鳴を上げ泣く子らは,私を笑顔にしてくれた,明るい声を響かせた子ら。荷物や本は私達が大切にしていたもの。
 取り戻しに行けないのか。潤んだ瞳は知らんぷり。
 「死なないよ,大丈夫だよ」私に縋る子らよりも,自分自身に言い聞かせるようにそう言い続けた。

 だってほら,私の兄が海っぺリで働いてたし。津波大丈夫かしらなんて考えたら私真っ先に崩れるし。
 豆腐メンタルの本気。私もみんなもすごくがんばって,笑顔を取り戻して,それぞれに帰って行って。
 抱きしめた彼女達の身体の震えは,もしかしたら私の震えかもしれない。



 忘れないんだ。
 あの時の服装も,あの日感じた心も,見た笑顔も話したことも卒業式の練習の内容も気温も後輩の話声も授業も覚えた事も考えた事も帰った後にやったことも眠りに就いたことも。
 そのときに見たかもしれない,やさしい夢もその終わりも。




*

しつこいくらい書いてやんよ。
私だって、糞餓鬼ながらに感じるものがあるんだ。
登下校中、絶対に思い出すあの日を、書かずにはいられないんだ。