大人オリジナル小説
- 泡 ( No.278 )
- 日時: 2011/08/19 21:43
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
人魚は泡に生まれ,泡に消えるらしい。
じゃあ,人は? もし人が泡に消えるとしたら,きっとその泡は毒々しいほどに鮮やかに紅い。
切り裂いた皮膚を,指でそっと隠す。生まれたてのそれはまだ鮮やかで,覗いた肉はグロテスクだった。私の中にはこのグロテスクなものが詰まっている,と考えると,何故だか無性に可笑しくて声を上げて笑ってしまった。
きっとこのグロテスクが人なんだろう。だから人は泡に生まれ泡に消えるなんてありえない。
けれどもし,人もそんな風に生まれ消えられるのだとしたら。
グロテスクなものは消えて,空に海に溶けることが出来るんだろう。雲になって,雨を降らすことが出来れば,私は万々歳。
人魚の様に生まれ消えられるのだとしたら,それは何にも代えられないハッピーエンド。
家族も居て,友達も居て,幸せな人生を送った人にとってはバッドエンドかもしれないけれど,私みたいに,家族も友達も私を必要としてくれるひとも私のために言葉を用意してくれるひともいない人間にとっては,何よりものハッピーエンド。
私が生きていた証すら,泡になって空気に溶けて雲になって雨を降らしてしまえば良いのさ。
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