大人オリジナル小説
- 迷路と絆創膏 その意味 ( No.284 )
- 日時: 2011/08/21 21:16
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
序
どこか真っ暗な場所に落とされた,ような気がした。
あたしはその中で一人,大切なものも一緒に落としてしまったような気がして,一センチ先すらも見えないその暗闇の中で,彷徨う様にふらふらと歩きながら,大切なものを探す。
ぺちゃ,ぺちゃ。
靴の裏にへばりつくような水音が響くけれど,あたしの手が何も掴まないことがどうしようもなく不安で,不安で。
空を切る,風を起こすあたしの腕は,何故かひりひりと痛むけれど,時折何かにつまずくけれど,まだあたしが求めてるものがあたしの手の中に収まらないのが不安で,不安で。
どこ,どこなの。
どこにいるの。
あたしはとうとうぽろぽろと涙を零し始める。ぴちゃ,ぴちゃ。靴の裏が響かせる水音は,更に大きくなって,それが怖くて立ちつくしていたら,突然その空間は明るくなった。
眩さに目を瞬かせ,光に慣れた頃に前を見て,あたしは言葉を失った。
そこにあったのは,黒と白の市松模様の床の上に,点々とある赤や透明の水溜り。血。涙。きっとあたしが今まで流したそれらだ。
水溜りを避けるように,何かが塊を成して転がってる。
良く見たら,それは,あたしが今まで「死んでしまえ」と呪った人たち。
この中に,大切なあの子はいるのかな。いないはずだ。だって,あたしは――。
泣きながら辺りを見渡す。角度を変えて,くるくる回りながら。
耐えきれず駆け出した。何度も転びそうになって,何度も転がる人達につまずいては水溜りに身体を浸した。
その先で見つけたのは,
「い……いやああああああああ!!」
他人に付けられたとわかる傷だらけの,大切なあの子。
序 / 終
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