大人オリジナル小説

03 「神は残酷だわ,私こんなに苦しんでる」 ( No.3 )
日時: 2011/03/20 22:55
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

03 中庭でお話しましょう


 希美という少女と仲が良くなったのは,美早希が希美に興味を持ったからだろう。年齢にしては細目で,それでいてスリムと呼べる十分な美しさを持ってるのに対し,それを何かに生かそうともせず相手を第一に考え動き何かあったら自分が傷ついてもその誰かを守ろうとする希美に。
 紹介は,希美の幼馴染であり美早希の親友である陽子。どこからか仕入れてきた情報をいつも美早希に伝え,またどこからか情報を仕入れてくる。
 アホか,と言ったらうん,と笑顔で言う彼女には呆れるが,今回ばかりは感謝した。


「希美ちゃんはさ,リストカットについてどう思う?」


 仲が良くなりかけの頃,まだ呼び捨てではなくちゃん付けだった頃。
 美早希は昼休み,人の少ない教室で日誌を書いている希美に訊いた。


「んー,良いと思うよ。実際私も二回くらい切ったし」


 ケロリと希美は言った。日誌を書くための鉛筆を動かす手を止めず,興味のない話に適当に相槌を打つように。


「…はい?」


 美早希がその言葉の意味を理解し,思わず間抜けな声を出す時には希美はもう日誌を書き終わり,今日のもう一人の日直の子の机の横に日誌についている紐をかけていた。


「だから,二回くらい切ったんだって,多分ハサミで」


 もう一度その言葉を言う時にはもう黒板の前に移動してて,耳障りとも安心感を覚えるとも言える音を立て黒板に書かれた文字を消していた。


「何かねー空っぽだったんだよ。んで,私に血が流れてんのかなーって思って切ったん。ちゃんと肉も見えたし血も出たよ。嬉しかったわー」


 笑いながら希美は言った。いや,笑い事じゃないだろうと美早希は思ったが敢えて口には出さなかった。
 食われる,と思ったから。


「興味あるんなら,やらない?」


 ほら。……まぁ,確かに一度,切ったけど,ね。
 美早希は,希美に興味を持っていたが,わざわざ食われに行くつもりはなかった。

「遠慮しとくわー」


 そう言えば彼女は,


「そうかーでも切る時は私も誘ってよ」


 と残念そうに,でもどこか嬉しそうに言った。
 獣だ。心のどこかで思ったのに,それでも彼女から離れようとしなかったのは本当に興味があったからだろう。
 自分とどこか似通ってると,感じたから。
 何でも受け入れられるのではないかと,過信したから。





「憧れは執着へ変わり」
「執着は妬みへ変わる」
「その偽物の友情は」
「いつか絶対枯れ果てる」



03/終