大人オリジナル小説

春風 瑞貴。頭を壁に打ち付けると,安心します。 ( No.73 )
日時: 2010/04/30 22:15
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

瑞貴のお話。

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 ああ,憂鬱だ。
 疲れたような目元,どことなくふらついている足取り。
 教室に行けば,迎えてくれる友達,だけれども,精神に気を遣ってくれるクラスメイトなんて一人もいない。


「おはよう瑞貴!」


 瑞貴は「笑顔が一番可愛い」と言われ続けてきた。
 それはさぞ,天使の微笑みを主張するかのように,ずっとずっとずっとずっとずっと。


 みんな,私に笑いかけてくれる。なら私も,笑い返す。


 その信念だけは曲げたく無くて。


「おはよう」


 にっこり,笑い返す。


「あーやっぱ瑞貴の笑顔は癒されるわあ」


 良い加減聴きあきたその台詞も,瑞貴の心の負担になっている。



 ああ,生きづらい。



 瑞貴は思う。
 本当に私が天使だったら,空に帰らなくてはいけない。地上はあまりにも息がしづらい。水中はあまりにも世界が狭い。空中はあまりにも空気が重い。
 それはきっと,この場に生まれた者ではないからだ――と,瑞貴は考えている。


 正常な人から見れば,「何を馬鹿な事言っている」…となるんだろうけど,彼女は本気。
 ああ,早く,空に私を帰して。


 いつしか母は言った。「子供は授かり物じゃなくて預かり物だと思う」と。
 ならば私も預かり物? じゃあ,私を預けたところは天?
 訊ねれば笑われるから,訊かなかった。


 ある日息ができなくなった。
 地上の空気に押し潰されたんだと彼女は思った。
 その時ふらついて,壁に頭を打ち付けた。
 すると吃驚,息はすう…と楽になった。
 彼女は思った。「壁に頭を打ちつければ楽になれる!」
 以来,壁に頭を打ち付けるのは,





「欠かせない日課みたいなもの」




+



同じ事をずっと言われる事が,どんなに辛い事かお分かりでしょうか。
どんなに良い事でも,ずっと言われ続けると,「私はそれしかないの?」と不安になる。

少しは,周りを違う視点から見る事をしてくださいね。