大人オリジナル小説
- 08 「私は誰かを傷つけるために生まれたの?」 ( No.8 )
- 日時: 2010/03/27 20:49
- 名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc
08 迷子
見放すような視線。
その先にあるのは,明らかに【大切にしてた】小物入れで。
「…こんなもの」
美早希は呟き,小物入れを乱暴に掴み取る。その時に,小さな裁縫ばさみや消毒薬,絆創膏が落ちる。切った時の為の消毒薬やコットンや絆創膏は,今の美早希を前にしては意味を持たない。
道化師ではなく,自己陶酔者。自己陶酔者ではなく,傍観者。傍観者に似た,見物人。
今や見物人は,【見物人の道化師】だ。
「こんなものっ!」
【見物人の道化師】は,小物入れを投げ捨てた。
いつしか,姉に買ってもらった,幼い頃の宝物。珍しく優しい日,特別に買ってもらった,桜色の小物入れ。
「私なんてっ,消えれば良いっ!」
そう叫んだ途端,美早希は頭を床に打ち付け,意識を失った。
*
目が覚めたら,知らない空間だった。
白と黒の市松模様。天井も壁も無い,あるのだろうけど目に見えない,のっぺりとした影なしの空間。嗚呼,これは夢なのね,と美早希はまだ上手く働かない頭の隅で思った。
「ここ,私の精神世界?」
そんなわけ,ないでしょう。
美早希の精神は,不安定。もしも精神世界ならば,もっと不安定な足場の,油断したらすぐ落ちてしまう様なところだろう。
「あーあ,こりゃまた迷子になりそうな空間で……」
その声は,気持ち悪いほど響いた。
「私の影無いね」
「光はあるのに」
「何でだろう?」
「興味ないけど」
08/終
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