大人オリジナル小説

虐待? なにそれ。私が受けてるのは愛情だけだよ? ( No.81 )
日時: 2010/05/09 11:04
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

病み上がり死ぬ気で書いてます。
書かないとマジで死ぬ間際の夢見るから。いや冗談抜きで。


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 虐待じゃないと思ってた。
 例えば……テーブルに頭を叩きつけられたり,怒られた時に半袖短パンで夜,外に閉め出されて一晩放置されたり,何かを残したりした時頭からそれを被らされたりするのも,虐待じゃないと思ってた。
 ホッチキスの針を肌に刺されるのも。シャーペンを顔面に突き付けられるのも。布団じゃなくて座布団の上で寝かされるのも。食事を与えられないのも。全部,虐待なんかじゃないと思ってた。

 全部私が悪いんだ。双子の弟はいつも優しくされてたから。
 全部私が悪い子だから。弟は良い子だから。私は出来そこない。弟は良い子。出来た子。こんな出来そこないにも優しくしてくれるすごく良い子。

 だから,虐待なんかじゃないと思ってた。


 ある日学校で友達に言われた。


「虐待されてる?」


 プライバシーを尊重する気はないのか,と一瞬思った。でも気にしなかった。虐待なんか受けてないと,自信を持って言えるから。言えたから。


「うん,包丁で怪我させられたりとか腐りかけの生ごみ食べさせられたりとかするけど大丈夫! 鋼の胃袋だからね!」


 笑って言ったはずだった。友達の顔は一気に青ざめて悲鳴を上げて逃げて行った。何で? 食べさせてくれるんだもん,優しいじゃない。
 友達はカウンセリングの先生である母親を公衆電話で読んで連れてきた。休み時間だったからだと思う。私は虐待なんか受けてないと思ってたから,その人に何の迷いもなく両親の「愛」を語った。
 その人は顔を真っ青にさせてこう言った。



「それ,立派な“虐待”よ」


 と。

*

 私は何とも思わなかった。
 両親の,私に接してくる態度も同じ。悪化なんてしてない。
 体の傷はすぐ癒える。内出血って結構,否かなり痛いから,すぐ癒えるのはありがたい。


 ある日私はテストで悪い点数を取った。九十五点。
 やばい,と思った。学年一位だったのが,不幸中の幸い。それで両親のご機嫌をとらないと。


「お母さん,私ね,今日のテストで学年一位の成績だったんだよ」
「へぇ,何点?」
「え,えっと……九十五,点」
「……! この馬鹿娘ッ,弟を見習いなさい情けない!」


 お父さんは仕事で居なかった。ちょっとほっとした。
 だけどお母さんは近くにあった鉛筆削りや花瓶を投げてきた。私の頭に当たって血が流れて,カーペットに滲みてしまった。

 私は下着二枚で外に出された。極寒の雨の中。
 通る人が少なかったのが幸せ。お父さんが帰ってこなかったのが幸せ。

 弟が途中でおにぎりを作って持ってきてくれたのが幸せ。


「ねえ,姉ちゃん」
「なあに」
「おにぎり,美味しい?」
「うん,すごくおいしい」
「よかった」

 弟は優しい子だから,疲れてる私の疲れをとろうと塩を多めにつけてくれたみたい。すごくよく効く。

「姉ちゃん」
「ん?」
「リストカットとか,アームカットとか…知ってる?」
「……なにそれ?」


 弟は突然謎の言葉を出してきた。
 私は頭上にクエスチョンマークを浮かべ訊きかえす。


「手首や腕に刃物で傷つけたり,薬飲んで自分を苦しめたりする。生きるための手段だと」
「ふうん,で,それ私に勧めに来たの?」

 丁度三つ目のおにぎりを食べ終えた時,私はそう言った。弟は大きく頷いて,ジーンズのポケットからカッターナイフを取り出した。

「辛くて,自分が分からなくなったら確認してよ。いなくなられたら困るから……」

 弟は,切なそうにそう言った。
 おにぎりありがとう,とお礼を言って,弟はカイロ一つ置いて家の中へ戻って行った。


 静かに,微かに晴れた空は,気持ち悪いほど気持ち良い空だった。



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幼い頃から虐待されてる子は,それが虐待だと知らない。