大人オリジナル小説

詩。 ( No.93 )
日時: 2010/05/21 21:21
名前: 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

 私は頭をかきむしる。何度も何度もかきむしる。
 離した指に血がついていた。
 だけども私はかきむしる。

私は腕をかきむしる。何度も何度もかきむしる。
目に痛いくらいに真っ赤に腫れあがる腕。
だけども私はかきむしる。


 手を伸ばした先に何があると訊かれた。
 私は静かに答えた。
 空気を微かに震わす程度の絞り出した声で。
 恐怖しかなかったかと訊かれれば私はイエスと答えるだろう。
 それでも私は恐怖に耐え答えた。
 「何もない,何もないよ,私が求めたものはどこにもない,貴方が求めたものはここにある」



静かに振動させた空気。ゆっくり頬を撫でた風。
静かに静かに,その可愛らしい人差指を熟れたぴんくいろの唇にあてて。
願いを込めた言葉を重ねて積み重ねて。


海に流した。



私はあまりにも小さい存在だったから,水溜りに浮かせて海に流したつもりになってた。
怖いから。





( 怖いもの知らずの貴女はいずこへ? )
( 分からない分からない,捜索願も出せない )




 紡いだ言葉は風が持って行った。
 私の頬を撫でながら。



空に抱かれ私は眠った。
かきむしった腕は水ぶくれだらけ。
何もない空の果てを夢見た。
求めたものは何かと訊かれた。



わからないと私は,心で答えた。
空気を震わすことはもうない。







( じぶんがわからないきょうふ )
( あまりにもおそろしくて )
( そらにかえりたいとつよくねがった )



+


さよならと別れを告げた。