大人オリジナル小説

Re: 終わらない戦い ( No.82 )
日時: 2010/12/22 19:16
名前: 鈴蘭

最初は声も出さずに泣いていた薫。
だが、洵に関する記憶が渦巻き、
そして、
「っ…洵ちゃ、怖い…っ怖い…っ」
二人の肩に顔を押しつけながら、そう話した。
「薫…」
榛名の同情の声。
「かー君は知らないと思うけどさ…」
「!?」
榛名の驚いた顔。
「マッチ…」
「洵ちゃん、人苛めてるよ」
薫は予想外の言葉に驚き、肩に押しつけていた顔を上げ、香奈美を見た。
「マッチ…それ、どういう事…?」
薫は二人の肩を自分の手で掴んだ。
「……」
香奈美は黙ったままだ。薫の手にぎゅっ、と力が入る。
「薫、い、痛いよ…」
堪らなくなり、榛名は声を出した。薫はごめん、と小さな声で謝ると手を離した。榛名の方の手だけを。香奈美の肩は掴んだままだ。
「どういう事だよ…」
両手で香奈美の両肩を掴む。
「言った通りだよ」
薫は思わず香奈美の肩を揺さ振る。
「どういう事だよ…なぁっ!!!」
薫が声を荒げる。そんな二人を心配そうに見つめる榛名。榛名の目は涙で滲んでいた。
「…言った通りって言ってるでしょ?」
香奈美は冷静にそう言う。
「かー君に近づく人が苛められてんの…標的は高塚とか…それをやってんのが洵ちゃんって事」
香奈美はそういうと、肩にあった薫の手をどかした。
薫は放心している。
「な、何で…洵ちゃん…何で…」
「………っ!」
榛名は一瞬悔しそうな顔をした。
「薫はさぁ、マッチの気持ちも少しは考えなよ!」
榛名は怒っていた。
「ぇ…」
何が何だか意味が分からず、素っ頓狂な声しか出てこない。
「榛名!…いいから」
薫と榛名は急に香奈美が大声を出したのでビックリした。
「マッチ!だって…だって…!!!」
榛名は声を荒げる。それをなだめるような香奈美の優しい声。
「かー君攻めてどうするの…何も知らないんだから」
「…っ…うん…ごめん…でもさ、」
榛名が言いかけた。どうしてもこれだけは言いたい。
「…はぁ…分かった」
実のところ香奈美はまだ、この事を聞かれたくないなと思っていた。自分が洵ちゃんに苛められているなんて。
「…マッチも、洵ちゃんに苛められてるんだよ…」
榛名の驚くほど冷めた声。
(エ…榛名、今何テ言ッタ…?)
「苛め…られている…?」
薫は信じられない、という顔をしている。そんな薫を見てか榛名は、
「私ね!聞いたんだよっ、洵ちゃんに何でこんな事するの、って」
泣きながら榛名は叫ぶように話す。
「そしたらっ、何て言ったと思う!?」
薫には見当も付かなかった。香奈美はただ黙って榛名の話に耳を傾けている。
「「かお君を守るためだよ」だって!人を守るためなら人を傷付けていいの!?」
榛名はその場に崩れ落ちた。
「…榛名…」
香奈美の声がこの空間に響いていた。
「洵…ちゃん…」
「っく…ぅ…っ…」
薫が目線を下に向けると榛名の流し、零れ落ちた涙の跡が目に焼きついた。
「洵ちゃんを止められるのは、かー君しかいない」
「洵ちゃん、狂ってる…狂ってるよ…」
涙を流しながら、途切れ途切れに言葉を発する榛名。その姿はとても痛々しくて見ていられるものではなかった。
「洵ちゃん…」