大人オリジナル小説
- Re: 終わらない戦い ( No.85 )
- 日時: 2010/12/23 14:32
- 名前: 鈴蘭
「洵ちゃんは、薫の言う事なら聞くと思うよ…っていうか薫以外の人の言葉は聞かない…」
香奈美の目はどこか悲しそうだった。
キーンコーンカーンコーン…
一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。
「…あ、授業…」
という榛名の授業の心配よりも薫が心配だったのは、
「あ、洵ちゃん」
という香奈美の一言に薫はコクコクと頷いた。
「あ〜あ…」
「はぁ…」
ため息がこの空間に流れる―――…
「すぐに戻るって言っちゃったしなぁ…」
薫は後の事を考えると寒気がした。
(洵ちゃん、笑顔で怒るからなぁ…)
―教室―
(かお君が戻ってこない…)
洵は机に座り、読書をしていたが本の内容などまったく入ってこない。薫の事ばかりを考えている。
「………」
周りのみんなも薫が居なくて、洵が一人という事は分かっていた。ただ、誰も話しかけないのは洵に苛められるのを恐れているからである。このクラスの中で洵がいじめをしている事はみんな知っていた。唯一知らないのが薫で、みんなは洵に口止めされていた。
「…今日、薫君居ないね…」
「マッチも榛名も居なくない?」
「本当だー…サボりかな?」
「あの3人仲良いもんねー」
「あ、さっき3人で教室出て行くところ見たよ」
「私、榛名がもし帰ってこなかったら先生に保健室に行きましたって言っておいてって言われたよ」
「相変わらず用意周到だねー」
「でもさ、そうするとー」
クラスの女子の会話が耳に障る。
(五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い)
洵は思わず耳をふさいだ。本もその拍子にぱたんと栞を挟み、閉じた。
(不愉快だっ…!何を言っている?置いていかれてかわいそうだとでも言いたいのか!あー早くかお君帰ってきてよ…かお君…かお君…かお君…かお君…かお君…かお君かお君かお君かお君かお君かお君かお君かお君かお君かお君)
洵は薫の事で頭がいっぱいだ。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが、鳴った。
ついに薫は帰ってこなかった。教室に入ってきたのは薫ではなく、数学教師の秋山 幸平。
「授業始めるぞー」
担任の秋山の声。みんなが慌てて自分の席に戻っていく。
「きりーつ」
学級委員の木村 美紅の声。洵はそれに黙って従った。
「気を付けー」
「礼!」
「「「始めましょう」」」
「ちゃくせーき」
がたん、とみんなが一斉に席に着く。
「じゃぁ始め…ん?田代と…内原と町田はどうしたー?」
秋山はこの3人が居ない事に気がついた。
「せんせーい、頭痛で保健室に行きましたー」
先ほど話していた女子生徒が答える。
「おーそうかーじゃあ教科書143ページの…」
何事もなかったように授業が進められる。
(かお君…かお君…どうして…どうして約束破るの…?)
洵の耳には秋山の言葉などこれっぽちも入っていなかった。