第一話「大丈夫、大丈夫だから」
「ふぁぁ〜……」
目を少し瞑りたくなるような眩しい朝日を身に浴びながら、あたしこと白谷伊澄は目を覚ます。
そして鈍いと自分で思える程ゆっくりとベッドから身を起こして、腕を真上に伸ばしてから伸びをする。
あたしは、この朝の時間がもの凄くと言って良い程嫌いだった。
何でかと言えば、
――――――お母さんの機嫌がもの凄く悪いから。
ガシャァァァァァン!!
自分の部屋の外から、皿の割れる豪快な音がしてそれと同時に「ごめんなさい!」と叫ぶ泣き声が聞こえてくる。
あたしはそれを聞いた瞬間、自分の背筋がゾクッと冷たくなり脳裏に嫌な予感が浮かぶ。
と、同時に部屋の扉を乱暴に開けて、皿の割れる音がした部屋へと大急ぎで向かう。
早く、早く、早く……!
自分の中の自分が、そう呼びかける。
そう、早く行かないといけない。早く行かないと……
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめんなさい! もうしません! だからっ、だから……だからっ……!!」
妹が、殴られる。
……虐待が、始まる…………!!
「うっせぇんだよクソガキがぁ! 朝っぱらから何してんだよ!! えぇ!!?」
あたしが部屋に入ると、大粒の涙を零しながら何回も何回も頭を下げる、妹の榎澄の姿が見える。
そして榎澄の目線の先には、榎澄が割ったらしい粉々の皿と、
怒 り に 満 ち た お 母 さ ん の 顔 が あ っ た 。
……たかが皿を割ったくらいで、そんなに怒らなくたって良いじゃんか!
あたしはそう感じながら急いで部屋の中へ入り、二人へと近づく。
するとお母さんは怒りに満ちた顔をこちらへと向けて、口角を不気味に吊り上げる。
こう言う時のお母さんは、とんでも無い事を考えている時だ。
あたしは瞬時にそう悟り、榎澄の前へと立つ。
「アンタ……可愛い可愛い妹の為に、アタシのストレス発散になって……くれるよなぁ?」
お母さんは砕けた皿をスリッパを履いた足で踏み潰す。
榎澄は今にも壊れそうなくらい震えていて、私の服の裾をぎゅっと掴んでいた。
あたしもあたしで本当は逃げ出したくなるくらい怖かった。
奥歯を噛んでいなければ歯はガチガチと震えているだろうし、頬に冷たい冷や汗が流れている。
でも……。
「榎澄を殴らないなら……良いけど?」
「良いお姉ちゃんだ、ねぇっ!!」
お母さんはそう言って語尾を強めながら私の頬を平手打ちした。
乾いた音がして、あたしはその場に倒れこむ。
痛い。
痛い。
熱い。
痛い。
(……でも、榎澄が大丈夫なら…………)
あたしは奥歯を噛む力を強くしながら、その痛みを必死でこらえた。
こんな事は、こんな朝は、本当に日常茶飯事。
……そんな生活が始まったのは、一ヶ月前から。