大人オリジナル小説

Re: ピアニストへの復讐 ( No.4 )
日時: 2011/02/14 22:01
名前: 真由子 ◆NCebuCi9WY

〜第一章〜


【貴女の音】
委員会の仕事が無く、特にやる事も無かった。
久しぶりにピアノを弾いてみようと思った彼女は、ファイルに入った田園の楽譜を手に取る。
沢山の思い出が詰まったその楽譜は所々汚れ、破けていた。
彼女は田園と言う曲が大好きだった。
教室を出ようとしたとき、誰かに声を掛けられ振り返った。桝田奏歌だった。
「魅月さん、何処行くの?」
奏歌とは仲がいいわけでも・悪いわけでもないし、お互いの事もよく知らなかった。
奏歌―――・・・。
まるで、音楽を奏でるために付けられた名前。
魅月はそれが羨ましくてしょうがなかった。
「音楽室。久しぶりにピアノ弾いてみようと思ってさ」
そう返すと、嬉しい言葉が返ってきた。
「魅月さん、ピアノ弾けるの?是非聴かせて!」
中学校までは文化祭やコンクールで何どもピアノを弾いてきたが、高校に入ってからは滅多に弾かなくなってしまった。
そのため、誰にも聴かせていないし、魅月が天才ピアニストという事を知っている人も少ないだろう。
6月の音楽室は冷房器具など置いてないくせに他の教室と違って涼かった。
魅月は椅子に座り、鍵盤の上に指を置いた。
そして、なめらかに指を踊らせ、田園を引き始めた。
先ほどとは目付きがまったく違う。
その演奏に、奏歌は言葉を失ってしまった。
奏歌もまたピアノをやっていたのだが、自分とは全く違う。
音も、思い浮かぶ風景も。
目を瞑ると、のどかな田園の風景が思い浮かぶ。
奏歌とはまったく違う、その風景、音。
魅月の演奏に釣られた生徒等がやってきた。
中には職員もいた。
魅月が田園を弾き終える頃には、音楽室は人で埋まるほどになっていた。
音が止むまで物音一つ立てずに皆じっと聴いていた。
魅月は静かに鍵盤から指を離す。
それと同時に盛大な拍手が起こる。
魅月は嬉しそうにお辞儀をした。
「将来はピアニスト決定だな!」
魅月の担任は言った。
自分よりこんなに演奏が上手い人物がいるとは思っていなかった。
何だろう。
この感情は。胸がモヤモヤしてしょうがない。
奏歌はその感情を振り払った。
「他にはどんなの弾けるの?」
奏歌が訊くと魅月は戸惑いながらも
「えっと、テンペストとか・・・」
周りから「弾いて〜」と言う声がしたので、魅月は嬉しそうに弾き始めた。
その音を聞いていく内に、奏歌の心の中はわけの分からないモヤモヤで溢れていった。