大人オリジナル小説

Re: コスモス(感想受け付けております) ( No.18 )
日時: 2011/04/15 13:40
名前: カノン
参照: http://ameblo.jp/kanon-burogu/

第6章――探し物

静かな水音がして、上履きは池に沈んでいった。

優衣は自分のしたことが信じられなかった。
物をかくされたりしたことは何度かあったが、する側になるのは初めてだ。
沙希の悲しそうな顔がの頭に浮かぶ。
優衣はあわててそれを打ち消した。
――自分はもっともっと、悲しい思いをしているんだ。
そう考え、いくらかほっとした。

でも、これはいじめ?
優衣に新しい不安が生まれた。
人の私物を勝手に持ち出し、故意に隠したのだ。
やはり、これもいじめと呼ぶに違いない。
優衣はそう考えて自分を殴りたくなった。
ほかの飼育当番の人が来た。
優衣は上履きのことを忘れて飼育小屋に入った。

『あれ?大森さんってニワトリ嫌い克服したんだ。今までは小屋なんかには入れなかったじゃん。』
他の当番の人がからかっても、ニワトリが優衣のそばに寄ってきても、優衣は何の反応もしない。
それもそのはず、いまの優衣には罪悪感と上履きのことしかないのだ。

当番の仕事が終わり日誌をつけた後、優衣たちは3階の教室に行った。
日直や真面目なほうの人たちは、もう登校していた。
いつものにぎやかな雰囲気に囲まれ、優衣は心が落ち着いた。
沙希のことも、上履きも、後悔の気持ちも、罪悪感も、和らいだ気がした。

ポニーテールの女の子が登校してきた。
優衣は忘れかけていた事実を思い出した。
彼女は1人ひとりに聞いている。
『私の上履き、今朝見た?今日来たらないんだけど…。』
優衣は足の先から凍りつきそうな思いだった。
沙希が登校してきた。

『優衣ちゃん、知ってる?私の上履き見た?』
沙希は優衣が自分の上履きを池に捨てたとも知らず、聞いている。
『さあ…。見てないよ。』
本当は私が捨てました。
優衣はそう正直に言いたかった。
『優衣ちゃん、飼育当番で朝早いでしょ。何か知っているかなと思って聞いてみたんだけど…ごめんね。』
優衣は涙が出そうになった。
謝るのは自分なのだ。
いや、謝るだけでは済まない。
それなのに、沙希は、親切にたずねて、情報を得られないのに『ごめんね』とまでいう。

自分にはにはそんなやさしさはない。
自分にはそんな人をいたわる気持ちはない。
優衣は自分が嫌いになった。

                ――明日に続く