大人オリジナル小説
- Re: 生きる希望を下さい ( No.100 )
- 日時: 2013/03/27 10:08
- 名前: 華世
♯20 言葉の刃
私は夕日に背を向け、家路を急ぐ。
後戻りは出来ない。紗雪とはもう話すことはないだろう。
本当に短かった。だが、私は己の快楽を選んだ。
仕方がないと言えば仕方がない。人間とはそういうものだろう。
「ただいま」
返事がないと解っていても、挨拶は一応しておく。
母が部屋にいることは承知しているが。
自分の部屋へと続く階段を重い足取りで上っていく。
だが、母の声でその足は石化してしまった。
「千聖、待ちなさいよ……!」
母の頬は赤く染まり、目はとろんとまどろみを含んでいる。
朝から酒を飲んでいたに違いない。
その言葉を無視して階段を上ろうとする私の足を、母の骨張った手が掴んだ。
「無視するなぁぁぁぁー……!!」
長く伸びた爪が肌に食い込む。今にも血が出そうだ。
私はその手を思い切り蹴飛ばし、階段を駆け上がった。
それでもまだ足を掴もうとする母を一瞥して、私は叫んだ。
「触らないでよ! 汚らわしい!!」
思わず叫んでしまった。
私は恐る恐る母の方を振り返った。
母は目を見開いて、驚愕した表情を浮かべている。
今まで虐待されても、ずっと耐えてきた。
痛くても、苦しくても、ずっと耐えてきた。
だけど耐え切れなくなって、言葉の刃となって母の心を突き刺した。
何もかも吹っ切れた。どうにでもなればいい。
堕落した私には、生きる希望なんてないのだから。
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