大人オリジナル小説
- Re: 生きる希望を下さい 【*23話更新*】 ( No.105 )
- 日時: 2013/03/27 10:10
- 名前: 華世
♯24 月明かりに照らされて
床に散らばった写真立ての破片を見つめ、私は我に返った。
あの時の状態が嘘のように落ち着いている。だが、安心する事は出来ない。
しばらくすると、シンナーがまた欲しくなるかもしれない。
心を落ち着かせるために自分の部屋をゆっくりと見渡す。
勉強に関するもの以外の物は殆どなかった。全部母に捨てられていたから。
自分でも殺風景な部屋だと思う。
そんな事を考えていた時、携帯の着信音が鳴り響いた。
“森川紗雪”の文字。
「紗雪……?」
私は少々戸惑ったが、内容を確認した。
『今から公園に来て。話したいことがあるの』
気づいたら私は走り出していた。
紗雪に酷い事をしたのは分かっている。だが、足が勝手に動き出す。
どんなに罵倒されても、憎まれてもいい。
紗雪に、会いたい。
私が公園に着いた時にはもう、紗雪は来ていた。
以前、私が座っていたベンチに腰掛けて。
紗雪は恐る恐る近寄る私に気づいたようだった。
「千聖!!」
いきなり名前を呼ばれて俯いてしまった。
合わせる顔がなかったからだ。
「助けられなかった事は謝るから……だから、話を聞いて」
紗雪の表情に憤怒はなく、悲しそうに微笑んだ。
「分かった」
私はゆっくりと頷いて紗雪の隣に座る。
「あたし、今まで千聖に秘密にしてた事があるの」
そう言い出す紗雪の目はいつもより真剣だった。
私が黙っていると、震えた声で続ける。
「言いたくなかったんじゃないの。言えなかったのよ……」
雲の隙間から僅かに漏れる月明かりが紗雪の頬を照らした。
その時、見てしまった。
私が今まで見た事のなかった、紗雪の涙を。
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