大人オリジナル小説

Re: 生きる希望を下さい ( No.111 )
日時: 2013/04/04 13:11
名前: 華世

♯27 夢と現実  紗雪視点



『紗雪。高校違うけど、私たちはずっと親友だよ!』
 千聖はそう言って、満開の桜の木の下でにっこりと微笑んだ。
 その表情は桜にも負けないくらい美しいものだった。
『ねえ、皆で写真撮ろうよ!!』
 千聖があたしの手を取って走り出す。ぼんやりと霞んで遠くが見えない。
 恐らく、クラスメイト全員が集まっている。
『先生、お願いします』
 皆の楽しそうな笑い声が聞こえる。先生も一緒に笑っている。
 それは、山びこのようにこだまして儚く消えていった。



 カーテンの僅かな隙間から差し込む朝日があたしの顔を照らす。
 夢と現実の間を彷徨いながら、ようやく意識を覚醒させた。
「夢か……」
 それにしても、幸せそうな夢だったと頬が綻ぶ。
 あたしには叶わない夢だけど。

 そんなのも束の間、あたしは千聖の事が心配になった。
 まともな会話を交わしてはいないものの、考えてしまうのだ。
 由麻に何もされてない事を祈るしかない。

「紗雪、入るわよー」
 幼い頃のあたしを、施設で引き取ってくれた義母の声。
 はい、と返事をすると義母は朝食を運んできた。
 朝食と言っても、梅干が入っただけの質素なお粥だった。
 いつもと同じ食事だが、食べられるだけ有難い。
「ありがとう」
 あたしはそう言ってお盆に置かれた皿を受け取る。
「体調はどうかしら。苦しい?」
 心配性な義母はあたしの顔を覗き込む。
「大丈夫よ、本当に心配性なんだからー」
 そう言って、笑って見せた。すると義母は安心したように微笑んで部屋を出て行った。

 いつの間にか、あたしは昨日の出来事を思い返していた。
 あの言葉を聞いて、千聖はどう思ったのだろう。
 お粥をゆっくりと口に運びながら考えた。
「怒っちゃったかな……」
 口の中に広がる梅干の味は、いつもより酸っぱく感じた。