大人オリジナル小説

Re: 生きる希望を下さい 【29話 久々に更新】 ( No.117 )
日時: 2013/04/14 17:41
名前: 華世

♯30 迷宮に囚われて



 今日も教室に紗雪の姿はなかった。また体調が悪化したのだろうか。
 昨日紗雪を訪ねた時は大丈夫そうに見えた。きっと、私に心配されたくなかったのだろう。
 そんな時、聞き覚えのある声が耳に入った。
「でねー、そうそう、そうなのー! あははは!!」
 このこえを聞いた教室にいる皆は、次々と扉の前に立つ。私も急いで皆の後ろに並んだ。

 そして、その声の主が教室に入ってきた。
「「「おはようございます、宮坂さん!」」」
 皆の声が重なった。それは、完璧にプログラムされたロボットを連想させるほど。
 引き攣った偽りの笑みも見事に揃っていた。
「ん……? ああ、おはよー」 
 返ってきた由麻の声を聞いた私は、妙な違和感を感じた。
 普段は皆を見下すように強気な声だが、今日はいつもの強さがまるで感じられない。
 私は由麻の元へ行き、恐る恐る挨拶をした。
「お、おはよう……」
 この声に気付いた由麻は私の顔をじっと眺めた。
 そして、衝撃的な事を口にした。


「……ええと、誰?」


 刹那、教室の皆の引き攣った偽りの笑みが一瞬にして消えた。
 教室中の視線が私と由麻に突き刺さる。
 由麻を見る限り、とても冗談には見えなかった。
 後ろにいる二人の取り巻きたちも呆然としている。
「由麻、本気で言っているの?」
 私の問いに由麻は答える様子がない。それどころか、目があちこちに泳いでいた。
 それを見て、私は悟った。
 彼女は完全に“麻薬の迷宮”に囚われてしまったのだ、と。