大人オリジナル小説

Re: 生きる希望を下さい 【33話 更新】 ( No.128 )
日時: 2013/04/18 18:09
名前: 華世

♯34 懐かしい微笑



 今まで心の内に秘めていた思いを全部伝えた。
 真っ直ぐに見た母の目には、今までの疲労と後悔を孕んだような涙が浮かんでいた。

「……千聖」
 久々に聞いた落ち着いた声に、私は少々戸惑った。
 母は私の前で気が抜けたかのように座り込んでしまった。
「今までそんな事を思っていたのね……気づいてあげられなくてごめんなさい。わたし、どうかしてたんだわ……!」
 母の目から様々な感情が混じった涙が、止まる事なく零れ落ちる。
「お父さんが失踪して近所の人たちから陰口を言われた時、見返してやろうと思ったわ。自分ひとりでも千聖を育てていけると。でも、わたしの一方的な感情が逆に千聖を傷つけてしまったのね……謝って済む事ではないけれど、本当にごめんなさい」
 そう言って母は私を抱きしめた。久々の母の温もりに、私は安堵の涙を流した。

 あの日から私は母をずっと嫌ってきた。
 憎くて、顔を見るのですら嫌で、何度も“死んでしまえばいい”と思った事もあった。
 だが、今の言葉で少しだけ変わった気がした。
 父は未だに帰ってこないけれど、これからまた希望の見える生活ができると信じたい。

「お母さん、ごめんなさい。これからは迷惑をかけないようにもっと頑張るね……!」
 私は泣き崩れながら母の胸の中で叫んだ。
 そして母はゆっくりと私を離して、涙に濡れた顔で微笑む。
 それは、あの頃のような優しくて穏やかな微笑だった。