大人オリジナル小説
- Re: 生きる希望を下さい 【38話 更新】 ( No.136 )
- 日時: 2013/04/22 20:36
- 名前: 華世
♯39 生きている証
私は紗雪の家のインターホンに手を伸ばす。
空は藍色の見事なグラデーションに染まっている。
「はーい……あら、こんばんは。来てくれてありがとうね」
中から出てきたのは紗雪の義母、千鶴さんだ。この間紗雪が名前を教えてくれた。
「こんばんは。夕飯時にすみません」
私の言葉に千鶴さんはにっこりと微笑み、中に入れてくれた。
モダンな雰囲気の螺旋階段を上り、私は紗雪の部屋に入った。
「紗雪、来たよー」
私は紗雪の元へ駆け寄った。紗雪は微笑み返してくれたものの、この間よりも元気がないように見える。
ベッドで体を起こしたままで自分から動こうとはしない。
悪い時に来てしまったな、と申し訳なく思った。
「来てくれて有難う。ごめんね、あまり動けないんだ」
この言葉に私は“紗雪との別れが近づいている”と変な考えを浮かべる。
紗雪はその考えを悟ったのか、私に向かって微かに震えている両手を伸ばした。
私も両手を伸ばして横から抱きついた。
「千聖……温かいね」
紗雪は柔らかくはにかんだ。
その笑みはとても可憐で、今まで以上に綺麗だった。
「紗雪も温かいよ」
軽く目を閉じて、彼女の鼓動に耳を傾けた。
トクン……トクン……
弱々しいものではあるが、しっかりと動いている。
“生きている”という事に改めて実感が湧く。
「ね、まだ心臓が動いているでしょう……?」
紗雪の美しくも恐ろしい声に、私は頷く事しかできなかった。
その後もしばらく学校の話をしていた。
由麻が捕まった事、玲が皆に伝えていた事、皆が仲直りした事――――
紗雪はそれらを聞いて、様々な表情を見せた。
話を聞くたびころころと変わる表情に、私は思わず笑ってしまった。
ずっとこんな風に楽しく話せたらどんなにいいだろうか。
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